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もぐら通信 Vol.36
あなたという人

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もぐら通信 vol.36            2006.08.03
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  〜 目の前に起こる出来事が最良の教材 〜

■今回のテーマ:あなたという人

 私には実母以外に、「おかあさん」と呼ぶ人がいます。

心の母とでもいいましょうか。この「おかあさん」との出会いは、約
10年前にさかのぼります。

 前職のPALTEKで顧客管理部門の責任者をしていた頃のことです。
私が「おかあさん」と呼ぶその人は、鹿児島の指宿(いぶすき)にある
ホテルの経営者で、鹿児島盛和塾の2期生でした。

 おかあさんの経営するホテルは当時、赤字経営でした。

 鹿児島盛和塾で、その状態を稲盛氏に伝えると、氏に、
「それは社長がボロなのだ。」
と一喝され、真実ゆえの厳しさに、奮起する手立てを考えあぐねていま
した。

 そんな状況を見ていた稲盛氏から、おかあさんは、ある人を紹介さ
れました。それがPALTEKの高橋社長でした。

 当時、PALTEKでは、独自の顧客管理手法でその経営を大きく伸
ばしていました。それをよく知っていた稲盛氏は、おかあさんに、
「高橋社長は顧客管理のプロだから、彼にいろいろ聞くといいよ。」
と言って、引き合わせてくれたのです。おかあさんは、とにかく何とかし
たいという一心で、PALTEKでの5日間の顧客管理研修に参加するこ
とにしました。

 その研修の責任者でもあった私は、具体的な顧客管理の方法や、データ
ベースの活用方法、それを活かした顧客リレーションの築き方などをお伝
えすることになりました。

 1997年の10月、これがおかあさんとの出会いでした。

 早速、初日の午前中から、顧客管理の説明を行おうとしました。する
と、第一声に、
「大事な経営の勉強を教えてもらうのに、私はあなたという人を知らな
い。そして、あなたも私という人を知らない。お互いを知らなくては、
本当に理解することはできません。まず、私という人を知って下さい。」
と。そう言って、おかあさんの半生を話してくれました。

 その内容は、想像を絶するものでした。

 1940年、彼女は埼玉で4人兄弟の長女として生まれました。当時、
画家であった父の稼ぎは少なく、生活は貧窮していたそうです。高校を
卒業後、銀行へ就職し、女性の憧れであった本店秘書課の配属になりま
したが、彼女は間もなく結核を煩い、療養所での闘病生活を余儀なくさ
れました。幸いにも回復し、仕事へ復帰したものの、死の病と疎まれた
結核持ちを暖かく迎えてくれる環境はありませんでした。

 とはいえ、彼女は一家を養わなければなりません。そう易々と仕事を
辞める訳にはいきませんでした。そんな中、浦和支店の新設話があり、
秘書課から支店経理課へ異例の人事異動となりました。

 その後、あるご縁で、ご主人と結婚し、ご主人の実家である鹿児島の
指宿でホテル経営に携わることになりました。ご主人には、大変大きな
3つの夢がありました。周囲からみれば無謀ともいえる程の大きな夢で
した。そんな夢に、彼女もまた主人を支える身として、日々驚愕しなが
らも、それに向かって二人三脚で歩みはじめたのです。

 ところが、その3つの夢がほぼ実現しようという矢先、ご主人が病に
倒れ、この世を去りました。

 そして、ご主人の後を継いで、彼女が社長へ就任することになりまし
た。

 経営者としては、ズブの素人であった彼女にとって、ホテルの経営は
決して容易なものではありませんでした。次第に経営状態は悪化し、存
続の危機にも遭いました。やっとのことでその危機も乗り越え、経営を
続けてきたものの、赤字経営という厳しい現状にありました。

 そんな折、出会ったのが稲盛和夫氏であり、PALTEKの高橋社長
であり、そして私だったのです。

 おかあさんは、本気でした。

 おかあさんの全身から搾り出される一言ひとことに、研修を担当して
いた他の社員たちも、一心に耳を傾けていました。研修ルームは水を打
ったように静まり返っていましたが、その静けさとは裏腹に私の頬には
熱い涙がこぼれていました。

 おかあさんも泣いていました。他の社員もハンカチで顔をぬぐわず
にはいられませんでした。

 一通りの話を終えると、おかあさんが、
「今度は、あなたの話を聞かせてください。」
と。

 私のこれまでは、人に披露できるものではなく、むしろ出来る限り、
触れたくなかった部分でもありました。ですが、その時はとても素直に、
おかあさんの前では、自分がどれだけ破れかぶれで、未熟で、そしてま
た、家族との関係も決して良いものではなかったことなど、ありのまま
を話すことができました。

 私の話を聞いていたおかあさんもまた、涙していました。

 このような調子で、初日は、お互いの生き様を分かち合うことで終
わりました。

 その後の4日間は、寝る暇も惜しむ程、おかあさんも、そして私た
ちも一身になって、改革の手立てを考えました。

 今、おかあさんのホテルは黒字経営になりました。

 そして、今も、おかあさんとの交流は続いています。

 仕事をしていく中で、自分というものをこれほどまでに突きつけら
れたことは、今だかつてありません。しかし、だからこそ、本気で向
き合えたと思っています。

 私の実母は既に3年前、他界しましたが、おかあさんは、私の本当
の母親以上に支えになっています。

 仕事を通じて、時に自分というもの、そのものをむき出しにされる
ことが、しばしばあります。しかし、それゆえ、学び、成長し、そして
人と人との結びつきが強まります。ビジネスは人と人との間で成立する
ものであるがゆえ、それもまた真実の姿なのかもしれません。

  あなたという人はどんな人ですか。

−end −

※レポート部分のみを抜粋して掲載しております

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